Theater Person Interview Vol.3 – ハンナ・グレース

Hannah Grace

劇場関係者にインタビューするこちらのコーナー。第二回目のゲストは東京インターナショナル・プレイヤーズ公演『ビッグ・リバー』の演出家、ハンナ・グレースさんです。NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』のスコット先生役を始め、『NHKプレ基礎英語』、『NHK入門ビジネス英語』などのナレーションやディズニー・ワールド・イングリッシュなどのイベント・ショーでも活躍しています。

今回は、彼女の演出家としての一面を探ってみましょう。

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Photo by Rodger Sono

*&執筆:Chieko Tanaka

-簡単に自己紹介をお願いできますか?

私はアメリカのケンタッキー州出身で、約5年前に来日しました。インディアナ州のボール州立大学で演劇を専攻し、卒業して間もなく日本に来ました。

東京インターナショナル・プレイヤーズ(以下TIP)に加わってから、もう4年以上になります。日本に来て2日後にはTIPで衣装を手伝っていました。

-日本に来たきっかけは何ですか?

私の演技の先生が言っていたんです。「この仕事で身を立てる土地を決めなくてはいけない」と。仕事をする場所というだけでなく、先生のアドバイスは、「生きて行く場所を決めなさい」ということでした。「自分が楽しんで暮らせる環境の町を選びなさい。オーディションで何度落とされたとしても、仕事でつらい時があっても、良い人生を送りたいはずだから」と。

でも、私はアメリカが自分の活動場所とは思えなかったんです。旅に出てアメリカを周ったけれど、私にとって魅力的だと思える場所がありませんでした。

その一方で、日本の本やマンガ、アニメ、テレビ番組には刺激を受けました。 そこで、日本のお芝居や能、歌舞伎などありとあらゆる日本文化を大学の演劇課程で学んでみました。さらには日本の小説も読み、日本文化や日本語にどっぷりと浸かりました。言うなれば、大学時代に「日本が私の生きる場所なんだ」というヒントを得たんです。だから私は大学を卒業してすぐに、一ケ月ほど日本に来てみました。

飛行機を降りてすぐ、東京に着いた時に分かったんです。「ここが私の生きる場所なんだ」って。

私はそれまでどこにも自分の根を下ろしたいと思ったことがありませんでした。「ここがホームだ」と思ったことがなかったんです。でも、ここに来て、「ここが私のホームだ」と思いました。

だから私は「日本ではどんな家に住もうかな」「どこで働こう?」と思いを巡らせました。そして「どこかに私が所属できる団体は無いかな」と思いました。それはまるで、ここに暮らし、生きて行く準備ができていたかのようでした。

帰国後、私は日本料理店で働き、地元で日本人の女性たちに英語を教えました。そしてケンタッキーにある日本関係のコミュニティに積極的に参加するようになりました。まさに準備期間です。

そして再び日本に来ました。東日本大震災が起きてからすぐにです。現地から連絡があって、その一ケ月後に来日し、ボランティアとして被災地で活動しました。そして、そのままここに住み続けています。

-最初はどういうきっかけで舞台の世界に足を踏み入れたのですか?

物心つく前から舞台が大好きでした。まるで当たり前のことのように舞台は私の暮らしの中にあって。例えば子供の頃、「お医者さんになろうかな。弁護士になろうかな。」と考えるでしょう?そこで「女優はどうかな?」と考えたんです。そして、「そうだ。女優になろう」と当然のように心が決まりました。それが私の出来ることだから、とても自然にそう思いました。でも普通の人がやりたいと思うこととは異なっていたようです。私はいつも言っていました。「私は女優という職業を選んだ訳ではないの。私はただ、生まれながらにして女優なの」と。私は自分の得意なことを伸ばす形で女優という夢を描き、それが私のキャリアとなりました。

それから私は演技の勉強にのめりこみました。また演技だけでなく、モデルになるための授業も受けました。私はシェイクスピアやベケットのお芝居をする方法は知っていたけれど、コーンフレークの売り方は知らなかったんです。つまり、コマーシャルの仕事をする為の勉強です。スタイリングやメイクなど、演技とは関係のない事も学びました。でも、自分という人間を商品として売り込むためには、この種のモデルの勉強は必要なのです。

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ハンナさんが出演したTIPの舞台『若草物語』(2014年12月)

-日本とアメリカの演劇界における主な違いは何だと思いますか?

最も大きな違いは、劇場と稽古場、そして制作のプロセスです。東京は大都市で物価も高い街です。賃料も高い。公演前に劇場で終日稽古をしなければなりませんが、そんなことをしたら途方もない金額になります。恐らくアメリカの人が聞いたら、みんな仰天してしまうでしょう。また、劇場を借りるにしても、あっという間に場所が押さえられてしまい、なかなか予約できません。

また日本の劇場は、時間にとても厳しいです。何時に劇場に入って、何時に出なければいけないか。一般的に日本は10時までに完全撤収が基本です。一方、アメリカでは午前2時半に劇場にいたって良いんです。もしリハーサルが必要ならね。公演をする時に時間の制約があることに大きな日米の差を感じました。

だから舞台公演をする際、スタッフは必死。一日でセットを組み立てて公演し、芝居が終わったらすぐにバラして撤収しなくてはならないんです。ここが舞台公演をする上での大きな違いです。

さらに、観客にも配慮しなければなりません。日本ではキャストがインターナショナルなだけではなく、観客も日本人含めインターナショナルです。それが舞台の演出や題材へのアプローチにも影響を及ぼします。

アメリカでは、ほとんどすべての人がアメリカ人。一方、東京の英語劇の世界は、本当にインターナショナルです。今回の公演のキャストも、地球上の五大陸をほぼ制覇しています。オーストラリア、アメリカ、ジャマイカ、ヨーロッパ、イギリス・・・世界各地です。だから今回のビッグ・リバーのような公演をする場合、あらゆるカルチャーから来たキャストにも、アメリカのローカルな物語が伝わるように、配慮が求められます。「当時のアメリカはこうだったんです」と説明が必要ですし、言わなくても分かってもらえるような事はありません。

でも、それは強みでもあります。インターナショナルな人達と舞台をすることは、非常に素晴らしい経験になります。なぜならみんな同じ環境で育った人たちだったら知りえなかったような視野の広がる体験ができます。これが、観客の大半が日本人である日本の演劇とは大きく異なる点ですし、私たちの大きな強みです。

私たちはいつも「どうしたら、ただのショーやステージで終わらないようにできるだろうか?」「どうしたら新しいコンセプトやアイディアを観客に伝えることが出来るだろうか」と考えています。だから私たちが掛けた時間と情熱が舞台に反映され、「ハックルベリー・フィン」の世界をお客様に体験していただけるよう願っています。

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Photo by Rodger Sono

-『ビッグ・リバー』の上演を企画したのはなぜですか?

「今こそアメリカ南部について伝える良い時期だ」と思ったからです。

その理由のひとつは、私がケンタッキー出身ということです。興味深いことに、日本で暮らして、アメリカという物を見つめ直すことが出来ました。アメリカ南部は全く違う世界なんです。アメリカでは現在もいろいろな事が起きています。アメリカの歴史や、私たちがいた場所、私たちの出身地についてご存知の方には説明するのがもっと簡単でしょうけれど。

-あなたは女優ですが、今回はなぜ演出を選んだのでしょうか。

『ビッグ・リバー』は長い間「私ならこういうふうに演出したい!」と思い描いてきた作品です。実はこの作品を高校生の時に上演したことがあるのですが、自分が演じたい役はハック以外にありませんでした。でも、残念ながら私は男性ではありませんし!(笑)

でも、もし私がハックを演じられないなら、演出することができる。そしてすべての登場人物に働きかけることが出来るんです。

ハックに、ジムに、他のすべてのキャラクターたちに働きかけ、彼らの物語を私が演出としてお届けできる機会を、私はずっと待ち望んでいたんです。

-観客の皆さんに物語を通して何を届けたいですか?

楽しいひと時。そして希望をお届けしたいです。

マークトゥエインは、「この物語にモラルを見出す者は訴えられるだろう」と言っています。観客の皆さんがこの物語について考えることは、私が演出することではありません。この物語では、どう考えるべきかについて語っていません。奴隷制についてさえ、語っていないのです。ただ「実際に起きたこと」と伝えています。ですから、観客の皆さまには、それぞれの感じ方があることと思います。私は、対話のきっかけになるような物を感じて、皆さんに家路について欲しいと思っています。とても良いディスカッションの題材になると思いますし、その問題の多くは現在も解決されていません。簡単な解決方法さえもないのです。

-あなたの夢を教えてください。

今の私の夢は、高校生の頃から変わっていません。物語を伝える人でいたいんです。人を魅了する、感情に訴えかける話を伝えたい。人と人とを結びつけるような話を伝えたいんです。劇場の中で、キャストは観客と一体感を得ます。これは映画では起こり得ません。

物語は、世界を救うと思うんです。人の命を救うことも出来る。人間関係が壊れないようにすることもできる。だから私の夢は、物語の語り手でいることです。劇場が私にとって一番ですが、声優やナレーションの仕事でも語り手となることが出来ました。それに、いつか自分でも物語を書くかも知れませんね。

-あなたにとって東京とは何ですか。

東京は私にとって第一の家、ホームです。

生まれた場所ではないけれど、ここが私のホームです。ここが私が人生を送る場所です。ここで生きて行きますし、一生懸命働いていきます。それは私が6年前に初めて日本に来た時と変わらない。東京は私の一番のホームです。

ケンタッキーに帰ろうと思ったことはありません。素敵なところですけれど、私が住みたい場所ではない。でも、ビッグ・リバーを通して私は自分の故郷に里帰りしているような感じです。

私の故郷ケンタッキーを少しでも東京に伝えることが出来たら、とても素敵だなと思っています。

ハンナ・グレイスさん演出

ミュージカル
『ビッグ・リバー ~ハックルベリー・フィンの冒険~』

【日時】2016年5月19日~22日
【場所】シアターサンモール
東京都新宿区新宿1-19-10 サンモールクレストB1
(最寄駅:東京メトロ丸の内線 新宿御苑前駅) *地図はこちら
【チケット取扱】東京インターナショナルプレイヤーズ www.tokyoplayers.org
【入場料】大人4,500円、学生2,500円
※公演は英語ですが、日本語字幕が付きますのでご安心ください

関連リンク

東京インターナショナル・プレイヤーズ:www.tokyoplayers.org/

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